フィラディス ワインリスト研究 第3弾 実践編 ~ Restaurant TOYO 成澤亨太 ソムリエ & Restaurant Ryuzu 丸山俊輔 ソムリエ ~

2020.05.01ニュースレター

今月のニュースレターは、好評いただいているフィラディス ワインリスト研究の第3弾、後編のペアリング実践編です。前号ではお二人のソムリエが選んだワインをご紹介しましたが、今号では実際に食事とワインを合わせた検証会の様子をレポートします。「ペアリングは心理戦」「ソムリエの生き様が見える」といった名言が飛び出す中、トップソムリエお二人のペアリング に挑む姿勢から、ワインサービスの極意が見えてきました。

ご協力:中国飯店 三田店

今回のお題は、王道の中華料理とのペアリングです。
成澤さんと丸山さんの経歴やペアリングワインの想定コメントは、前回のニュースレターをご参照ください。

基本条件

○ペアリングコースとして、6000円での提供を想定

○基本的にフィラディスのエージェントアイテムから選択、 ない場合は他社アイテムも選択OK

○ワインの産地は問わない

○スープやご飯物は含めないが、コースで供するイメージ

 

<メニュー>

①冷菜の盛り合わせ

・クラゲの冷菜・ピータン

・チャーシュー・棒々鶏

②青菜の炒め ③エビチリ ④エビマヨ

⑤麻婆豆腐⑥青椒肉絲 ⑦酢豚 ⑧豚肉の角煮

お二人が選んだワインリスト

ワインリスト (1)

ペアリングは心理戦

開始早々にお二人から「ペアリングは心理戦」だという言葉が飛び出しました。つまりお客様と将棋を指すように心理戦を行ないながら、ゴールである”最高の満足感”を目指すということです。
ペアリングをオーダーされた場合、お店によっては提供するお料理に全て最初から決まったワインを出すこともあると思いますが、お二人はお客様の来店頻度やオーダー時の様子、あるいは食事途中の会話の内容から、ワインに対する興味の強さや経験を推し量り、ペアリングコースの内容を柔軟に変えていくそうです。
例えば、ワインエキスパートを取得しているようなワイン好きと日常ではワインは飲まないお客様ではもちろんお出しするものは変わりますし、ワイン好きだったとしても王道の安心感や高級感を求める方と感度が高く新しい体験を求める方とでは異なるアプローチが必要になります。それをコミュニケーションの中から見極め、少しでも高い満足感を味わっていただけるワインをご提供することが重要になります。
成澤さん曰く、「ペアリングコースにおいて、お客様の満足度をつくるのは半分がワイン、半分がソムリエ」だそうです。ソムリエの力量がお客様の満足度を左右する訳ですから、非常に大切な役割を背負っていることを今一度認識させられました。

最初が肝心、価格以上の価値あるものを

今回はお客様のワインへの関心度まで条件として指定していませんので、お二人のセレクションは比較的王道の組み合わせとなりました。その中で、成澤さんは随所に遊び心あるペアリングを入れてワクワクさせる流れを作り、丸山さんはお客様を飽きさせない絶妙な緩急とお得だったと感じるような満足感の高いラインナップを提案してくださいました。

では、具体的に料理とワインの検証結果を見ていきましょう。

冷菜の盛り合わせ(クラゲの冷菜・棒々鶏・チャーシュー・ピータン)

イメージスタートに選んだのは、成澤さんはロゼ、丸山さんはシャンパーニュでした。
お客様の心を掴むには、最初の一杯が肝心です。料理に合うだけでなく、お客様にこれから出てくるワインに期待感を持っていただけるような選択が必要になります。高級感のあるシャンパーニュはワクワク感を盛り上げるのに最適ですし、泡ではなくあえてロゼを選択することによって「お、ここはちょっと違うな」と思わせる効果があります。また、サービス面では、この一杯のプレゼンテーションを行う際にお客様のワインへの興味を測り、今後の選択の参考にすることができます。

お料理は味わいの違う4種料理の盛り合わせです。
個別に見ていくと、コリコリしたクラゲの冷菜はほんのりと香る醤油とごま油の香りがシャンパーニュのムニエとよく合い、双方の旨味を引き立て合いました。ロゼは若干タンニンが気になるものの、果実味をプラスし違う料理を食べているような別の顔を見せてくれました。
棒々鶏にはロゼがベストマッチ。重心の高い味噌の風味とロゼの果実味やタンニンが絶妙似合う非常に華やかな組み合わせでした。シャンパーニュは合わせた時に果実味や甘味がふんわり出てきてまとめてくれ、ワイン自体を更に美味しく感じました。
チャーシューにはシャンパーニュ!バランスが良く、二つが心地よく同調し、旨味が押し寄せてくるようでした。ロゼも果実味のインパクトが強く、美しいフレーバーが強調され、フレッシュでずっと食べていたくなる魅力溢れるペアリングでした。
ペアリング難易度の高いピータンですが、ロゼはタンニンがある分しっかりと応対して甘味を引き出していました。シャンパーニュはシェリーや紹興酒のような熟成感がもっと必要だと物足りなさがありましたが、泡特有のまとめてくれる効果によって相性は悪くありませんでした。
シャンパーニュはそれぞれの料理に寄り添ってまとめてくれ、ロゼは別の顔を見せたり華やかにしたりと料理によって様々な側面を見せてくれるような面白さのあるペアリングとなりました。方向性は違いますが、どちらも正解だと思える好相性のスタートとなりました。

青菜の炒め

イメージ今回の青菜はチンゲンサイでした。成澤さんは海のワイン・アルバリーニョを、丸山さんは山のワインであるアルト・アディジェのソーヴィニヨンを合わせました。どちらも爽やかな白ワインです。
Just Bは上位のアルバリーニョのためワインに豊かな果実味や熟成感、オイリーさがあるのが特徴ですが、青菜の炒めにコクと塩気を足すとともに双方のオイリーなテクスチャーが調和してずっと食べ続けていたいと思わせてくれました。
対してソーヴィニヨンは香りの一体感がある爽やかなペアリングで、上品な甘味を感じさせてくれつつもキレがあるため、次のワインへ良い流れでバトンを渡すような印象を受けました。両方ともに素晴らしいペアリングでした。

中盤は緩急をつけながら、美しい流れを意識

エビチリ

あまり辛味が強くないケチャップ系のエビチリに対し、成澤さんが選んだゲビュルツは、ワインの酸味がエビチリの甘味・旨味を際立たせるとともに、ゲビュルツの特徴的な香りもプラスされ、エキゾチックなマリアージュとなりました。まるでエビの生春巻き+スイートチリソースのようで、良く合いました。
丸山さんのリースリングはワインの甘味(残糖)とエビの甘味が同調し、重なり合った甘味がしっかり伸びていくように感じました。酸味と甘味、生かす要素が異なる対極のペアリングだと言えます。
尚、ゲビュルツやリースリングといった特徴が強く、更に残糖があるようなワインをお客様に出す際にはお二人とも緊張するそうです。ご提供するワインの流れを重視し、前に出すワインが爽やかな白ワインだったために、お二人とも緩急をつけるための選択でした。

海老マヨ

ここでお二人のセレクトに方向性の違いが見られます。丸山さんは高級感のあるブルゴーニュのシャルドネを選択。ワインの柔らかい酸がマヨネーズの酸味と合ってキレイにまとめながら、お互いの柔らかいテクスチャーやマロラクティック発酵由来の乳酸のニュアンスとマヨネーズのミルク感が非常にバランス良く、同調のマリアージュの真骨頂でした。
対して、成澤さんが選んだのはしっかり果皮浸漬させたオレンジに近い白ワインです。エビ料理が2種類続き重たく野暮ったくなるのを断ち切るために、タンニンとコクがある白ワインをセレクトされました。実際にタンニンが料理にエレガントさやストラクチャーを与え、会話したくなるような楽しいマリアージュが生まれました。ここで変化球のワインを挟むことでワイン好きを唸らせ、お客様との会話に繋がる考えられた1本だと言えます。
お二人ともに素晴らしいペアリング技術を見せてくださいました。

麻婆豆腐

お二人ともにロゼスパークリングを選択。成澤さんはロゼやオレンジワインで心を掴んだお客様を更に唸らせる高級感あるシャンパーニュを、丸山さんはカバながら非常にクオリティーの高いロゼを選択して意外性を演出しています。
どちらもロゼならではのスパイス感や発泡で麻婆のスパイスや辛味を受け止め、果実味や細かな酸が旨味を増幅させるとともに、フレーバーを上に引き上げ爽やかなアフターを残してくれました。

青椒肉絲

イメージここで双方が適度なタンニンを持つ滋味深い赤ワインを選択。成澤さんのドイツのピノ・ノワールは、青椒肉絲にドレッシングをかけるかのごとく、酸を足してさっぱりとエレガントに食べさせてくれるような組み合わせでした。
丸山さんのカベルネ・フランは、反対に安定感や満足感を感じ、重たくはならないのですがしっかりと締めてくれるような組み合わせで、コースの流れとして非常に優秀でとても良く合いました。

計算された締めの演出

酢豚

ロゼ泡→赤ワインという流れの後、通常なら赤ワインが続きそうですが、お二人が選んだのは個性的な白ワインでした。
成澤さんが紹興酒を合わせるイメージから選択したサヴァニャンは、酢豚のたれによく合い、メイラード反応の風味の同調、アフターの一体感など、とても安心感のある王道のマリアージュでした。
丸山さんの選んだアルザスのゲビュルツは、柔らかい酸味やテクスチャーが酢豚の味わいに同調し、更にゲビュルツ特有のフレーバーがアクセントを加え、華やかでスケールの大きいマリアージュを体験させてくれました。
方向性は違えど、2つの選択肢のどちらも非常に良いペアリングでした。

豚肉の角煮

コースの最後は、どのように完結させるかを考え、満足感を感じていただける締め方を演出する必要があります。
成澤さんはしっかりとしたジンファンデルをチョイス。ストーリーの締めくくりとして、バシッと決めにいく戦法です。エキゾチックスパイス+甘味+旨味+塩味というジンファンデルの個性はまさに豚角煮の個性に同調するため相性は抜群で、ペアリングならではの満足感を生み出しました。
丸山さんはカリフォルニアのピノ・ノワールを合わせました。こちらは豚のどっしりとした甘味や旨味のコクに、ワインのミネラルや酸味・華やかな果実味を加えて補完させ、じわじわと長い余韻を味わわせる戦略でした。バシッと締めるというよりも、映画のエンドロールを見るような心地良さがありました。

まとめ

個性と安心感がお客様の満足感を生む

イメージ今回お二人に考えていただいたペアリングを解説付きで味わう中で、成功するペアリングコースには2つの重要な要素が必要なことに気づきました。
一つは、お客様に新しい発見をもたらすソムリエの個性が発揮されていること。もう一つは、お客様の安心感が担保されていることです。
まず、お客様にとってペアリングの醍醐味とは、自分では辿り着かないような新しいワインや斬新な料理との組み合わせを発見することです。それはソムリエ自身の経験や思考力、つまり際立つ個性が必要になります。成澤さんが会の途中でおっしゃった「生き様が見えちゃうから恥ずかしい」という言葉が示す通り、ペアリングはソムリエを丸裸にさせるようなサービスなのかもしれません。
しかし、ただ個性を出せば良いというわけではありません。お客様に満足感を持って帰ってもらい、再来店を促すためには、「価格以上に価値があった」「任せて正解だった」と思わせてくれる安心感が必要です。それはシャンパーニュやブルゴーニュかもしれませんし、どっしりとした赤ワインなのかもしれません。お客様によって異なる満足感のスイッチを会話の中から探し、しっかり押してあげることが成功の鍵なのだと感じました。
これまで何気なく楽しんでいたペアリングですが、ソムリエさんの駆け引きやストーリーが緻密に盛り込まれていることを知り、その奥深さにますます魅了されてしまいました。また、今回は中華料理を取り上げましたが、スパイスや脂を多用し、甘味・塩味・酸味・苦味・旨味の五味をこれでもか!と効かせたメリハリのある味わいが特徴の中華だからこそ、同じく複雑な要素を持つワインは組み合わせるメリットや面白さがたくさんあると実感しました。ぜひ皆さまも、中華料理×ワインの組み合わせに気軽にチャレンジしてみてください!
最後になりましたが、今回のニュースレターのためにペアリングコースを考案し、お忙しいなか検証会にもご参加いただいた成澤ソムリエおよび丸山ソムリエのお二人と、ご協力いただきました中国飯店三田店様に、心から感謝申し上げます。

※検証会は、感染症対策を十分に行なった上で3月中旬に実施しました。