[2019年5月号] 【世界のトレンドを知る①】シェリーの過去と現在    (バイイングアシスタント 谷川 涼介)

2019.05.08ニュースレター

世界で最も偉大なワインの一つで、食事と完璧に合うにも関わらず、

世界で最も過小評価されているワインは何でしょうか?

 

それは辛口のシェリーです。

 

その理由はシャンパーニュと比較するとよくわかります。

どちらもアペリティフとして認知が広く、畑はピュアなチョークの土壌、

どちらもベースワインを造りそこから次の工程に進みます。

高い技術を要するブレンドからシャンパーニュが生まれ、

長い樽熟成の後で巧みなブレンドをするのがシェリー。

 

もう一つの共通点は、その多くがヴィンテージ表記なしに販売されていることです。

これはつまり、他のワインとは異なりボトルは違えどその見た目と味わいは毎年変わらず、

ワイン評論家にとっては取り上げるべき「新しさ」がない、と言い換えることもできます。

 

これほどの類似点がありながら、シャンパーニュは世界的な成功をおさめ、

シェリーの売り上げと評価がしぼんでいったのはなぜでしょうか?

この低迷の背景を読み解くとともに、現在注目を集めるプレミアムシェリーに焦点を当て業界のトレンドを見ていきたいと思います。

sherry glass image

今大注目のPremium Sherryのスタイルとは?

Seasonal sherryとEn Rama

口のシェリーと言えばシトラス系フルーツにナッツや塩味の刺激的なアロマが思い浮かびますが、この独特な味わいを生み出す産膜酵母(以下フロール)に今世界の注目が集まっています。

スペイン語で花を意味するフロールは酵母によって生み出される白い膜のような外観をしています。樽で熟成させる際、ワインを5/6程度まで注ぎあえて上部に空洞を残すことで、ワインの表面には水を吸ったパンのような見た目の酵母のクッションができます。

酸化から守られる一方でワインにはフロール特有のなんとも香ばしい風味がつくというわけなのですが、実はこのフロール、きているのです。この‘生きている’特性は、世界中でナチュラルワイントレンドが進む中、ソムリエや自然派ワイン好きの興味を引いています。

Photo by El Pantera

Photo by El Pantera

彼らはフロールの特性が活きているフィノやマンサニーリャを季節のシェリー(Seasonal Sherry)と呼びますが、その理由は一年を通してフロールの生体が季節ごとに変化し、それに伴ってワインの味わいも変化するからです。例えば、春になるとフロールはより厚くなり、味わいはクリスピーで軽やか、グリーンアップルの力強い印象がある一方、秋にはフロールの色が少し濃くなり、味わいはやや重めに、よりアーモンドのニュアンスが強くでる、といった具合です。

ェリーを樽からゆっくりと取り出す作業はサカ(Saca)と呼ばれますが、例えば春に取り出されたシェリーであればラベルにSaca de Primavera(春に取り出した)、秋であればSaca de Otono(秋に取り出した)といった表記が見られます。夏や冬に取り出すこともありますが、フロールの活動が最も活発になり、ワインのフレーバーにその個性がはっきりと表れるのが春と秋であるため、生産者は比較的この時期を選ぶことが多いようです。

フィノやマンサニーリャは通常瓶詰め前に清澄と濾過を行い、ワイン中に残存する小さなフロールのかけらを取り除くことで濁りのないクリアなワインに仕上げます。

かし最近の自然を求める流行に伴って新しい流れも生まれています。ほとんどまたは全くフィルターをかけず、樽から直接飲んだときの味わいに近いものに仕上げるエン・ラマ(En Rama)と呼ばれるもので、最もポピュラーなブランドの一つであるティオ・ペペが春に生産するエン・ラマには、まるでシャンパーニュのデゴルジュマンの日付のようにサカの日付がラベルに記されています。

新カテゴリー「酒精強化しない」シェリーとは?

Navazos Niepoortの出現

ェリーの産地であるスペイン南西部ヘレス地方では、若い世代の作り手たちがテロワールにこだわる動きを見せており、酒精強化をしないシェリーが話題を呼んでいます。

世界のベストレストランで二度も一位に輝いたカン・ロカのソムリエであるジュゼップ・ロカは、ナバゾス・ニーポート(Navazos Niepoort)が初めて
リリースされた2008年を新時代の幕開けだと話しています。ナバゾス・ニーポートはエキポ・ナバゾス(Equipo Navazos)によってリリースされた酒精強化しないシェリーの第一号です。このワインはヘレスのアルバリサ土壌(ピュアなチョーク)で育つパロミノ種を使用し、600Lの古いアメリカンオークで醸造、約8ヶ月フロールのもとで熟成させてリリースされ、もちろんアルコールは足されていません。
old barrel image

若い造り手の一人、ルイス・ペレス(Luis Perez)はこうした新カテゴリーが生まれる背景には、ヘレスの生産者たちの意識変化があったと話しています。
たちは小さい頃からへレスは面白くない土地で、ワインは時代遅れで熟成香に支配されたものと思いながら過ごしてきました。世界が新樽のきいた凝縮感のあるワインに夢中になる中でもヘレスは時代と逆行していました。果実味はほとんど考慮されず、酸化のニュアンスこそが受け入れられ、樽はひどく古びれたものしかありませんでした」

こうした環境の中でルイスは古い文献から良い畑と良いブドウがあれば酒精強化は必ずしも必要ではないことを学び、「ロールではなくテロワールを(Less flor and more soil)」という彼のモットーが生まれました。「フロールが強すぎれば補酒をして効果を薄めるし、逆に物足りなければ樽内の液面を下げてフロールの効果を出させる。赤ワインで樽を使うのと全く同じこと」と話しています。

なお、現在シェリーは法律上では酒精強化されたワイン(アルコール度数を上げるためにリキュールを添加する)でなければならないため、酒精強化をしていないものは公式にはシェリーと名乗ることができない、という状況にあります。

Premium Sherryブームの背景を読み解く

レミアムシェリーの人気は一部の愛好家だけで小さく盛り上がっているわけではなく、グローバル・マーケットで見ても消費が増加しています。世界でも有数のアルコール飲料に特化した市場分析会社であるIWSRによると、2015年の販売量に対し2016-2021年の販売予測では約18%伸びるとみられています。

主な理由として考えられるのは、グローバル・マーケットでの「高級品志向」の広がり、つまり量は少なくとも上質なものが飲みたい ’Drink less but drink better’という消費者意識が高まっていることが挙げられます。また、イギリスで高級スパニッシュレストランやタパスがブームとなっており、小さいお皿で多くの品数を楽しむスモール・プレート・カルチャーが盛り上がりをみせています。

広いスタイルを持つシェリーだからこそ飲み手の食欲を飽きさせない、まさに理想的なシチュエーションです。また、ロンドンでは2010年に初のシェリーバーとなるバー・ペピート(Bar Pepito)がオープンして以来、次々と新しいシェリーバーがオープンし、新しい顧客を運んできていることも人気を後押ししています。

Sherryの低迷期とその背景

こうしたスポットライトが当たる一方、シェリー業界がそれまで歩んできた道のりは決して平坦なものではありませんでした。1980年からの30年間、シェリーは生産量減少と輸出市場での販売量の落ち込みというダブルパンチを受け未曾有の大低迷期を経験します。

に2000年に入ってからの落ちこみが顕著で、トップ5マーケットであるイギリス、オランダ、スペイン、ドイツ、アメリカでの売上が低迷しました。

2010年までシェリー最大の市場であったイギリスでは2002-2015年で販売量が約50%減。低迷期以前の1970年代初頭にはハーヴェイ・ブリストル・クリーム(Harveys Bristol Cream)という甘口シェリーが空前の大ブームを巻き起こし、イギリスだけで年間100万ケースを売り上げ世界的にも高い評価を得ましたが、現在の売り上げはピーク時の約1/4程まで落ち込んでいます。続くオランダでも2002-2014年で約2/3減となりました。

一方、スペインでは国内消費は他国ほど顕著な落ち込みはなく、やや減少するも横ばいの推移を見せていますが、このことからスペイン以外の国でシェリーを飲む人が大幅に減っているということが読み取れます。
sherry sakes

こうした低迷の背景には次の4つの理由が考えられます。

1. 競合の台頭

ここ数十年でスペインが世界最大規模のワイン産地として大きくなった背景には、リオハやプリオラートの人気やCavaの品質向上改革がありますが、こうした競合の台頭によって相対的にシェリーが影に追いやられたこと。

2.消費者の誤解と偏見

1970年代初頭に起こった甘口シェリーブームの影響が強すぎて今でも「シェリーは全て甘口である」といった認識の人がいること。これに加えて、甘口シェリーを特に好んだのがシニア世代であったため、シェリー=おばあちゃんの特効薬的なイメージが根強く残ってしまっていること。また、一部の人たちは酒精強化ワイン=アルコールが高く食事と合わせるのが難しいと誤解をしていること。

3.増税問題

イギリスにあるワイン・スピリッツ業界支援組織WSTA(Wine and Spirit Trade Association)によると2007年以降、酒精強化ワインの税金は53%も上がっており、これはシェリー1本当たり約+1ポンドも高くなっていること。

4.EU政策

2007-2011年にEU政府によって行われた「引っこ抜き計画」。EUでのワイン過剰生産に歯止めをかけるために余分なブドウ木を根こそぎ引っこ抜くという目的で行われましたが、へレスは最も影響を受けたエリアの一つでした。
sherry vineyard area

まとめ

去の大低迷期から現在のプレミアムシェリーブーム到来の流れを見てみると、取り巻く環境ががらりと変化していることがよくわかります。

生産者側では世代交代が行われ、醸造ではなくよりテロワールを意識する若い世代の台頭とそれに伴う新カテゴリーの出現。一方、飲み手側ではスモール・プレート・カルチャーの流行と「量よりも質」へと消費者意識がシフトしていきました。

2017年にはリベラ・デル・デュエロの著名なワイナリーであるピングスのオーナー、ピーター・シセックがシェリーの樽 (ソレラ)と畑を購入したことで業界からの注目がさらに高まっていますが、フィラディスとしても今後の動向が気になるエリアであり、アンテナを張ってしっかりとウォッチしていきたいです。