[2018年12月号] 【フィラディス実験シリーズ第21弾 】鮨とワインのマリアージュ決定版(広報 浅原 有里)

2018.12.05ニュースレター

とうとうやってきました・・・今回は料理のジャンルの中では最難関なのではないかと思われる、お鮨とワインのマリアージュの法則を解き明かしていきたいと思います。

 

季節によって変わるネタに、シャリとわさび、それから醤油やツメなど、様々な要素が絡み合うお鮨。ワインを合わせるとなると、シャリは赤酢なのか白酢なのか、薬味は何を使うのか、そしてそうした要素とたくさんのネタとの掛け合わせになるため、マリアージュの可能性は無限に考えられます。

 

突き詰めて考えるのであれば、職人さんごと×ネタごとに1貫ずつ合うワインを探していく必要があるかもしれませんが、それでは属人的すぎる上に複雑になりすぎて現実的ではないため、今回はより汎用的で幅広く合わせることができるワインの法則を探していきます。

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【鮨のポイント】

鮨は世界でも稀に見る“10秒以内に完結する料理”です。
以下の3つの要素に分解して考えていきます。

★シャリ
シャリ=酢飯ですが、シャリは鮨屋の命であると言っても過言ではありません。酢は何を使うのか、塩梅をどう決めるのか、職人さんのこだわりが光ります。ワインを合わせる上では、米の甘味と酢の酸味、旨味が味わいの要素として重要になります。また使う酢によって、白酢であれば甘味と柔らかな酸味が特徴となりますし、赤酢であれば豊富な旨味と力強い酸味が特徴です。

★ネタ
さっぱりとしたものから脂が乗ったものまで様々です。一つ一つに職人の仕事が施されています。

★ワサビ&醤油
ワサビと醤油が基本ですが、他の薬味であったりツメが塗られる場合もあります。

鮨全体で考えると、口に入れた時に上の3つの要素はまとまって感じられます。味わいの前半では、シャリはふわっとほぐれ、その酸味と甘味が魚の旨味や脂などの美味しさを持ち上げて印象付ける役目を果たします。そして後半まで魚の美味しさが余韻として残ります。口中での滞留時間は短いですが、シャリの目立たないながら素晴らしい黒子の働きによって魚の旨味をこれでもか!というほどがつんと味わうことができます。

今回の実験では、シャリは白酢と赤酢の2種類を用意し、マグロ(赤身・中トロ)・うに・海老・アジ・きんめ・サワラ・かつお・いか・穴子(ツメ)・巻物・玉子といったネタをそれぞれの酢飯ごとにいただきながらワインを合わせていきました。江戸前の職人さんだったため、手元で醤油をつけるのではなく、煮切りを塗ってから出していただくスタイルでいただいています。

【ワインのポイント】

今回もお鮨屋さんに協力いただいて実験を行なったため、ワインはある程度合うと思われるものを事前に絞り込んでから持ち込みました。「鮨のポイント」に対して、ワイン に必要/不要なポイントを検討し、以下の13種類を用意しました。
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[ポイント]
★シャリに酸味があること
→キレイな酸味を持つワインを合わせれば甘味が増す
→酸はワインの主要な構成要素の1つであるため、大きなアドバンテージとなる

★鮨の酸味&旨味に負けないこと

★赤ワインについては、果実味やタンニンが強すぎるものは合わないことが予想できるため、ピノ・ノワールを産地違いで用意

【マリアージュポイント】

検証すべき要素は「フレーバー」「五味(甘味、酸味、塩味、旨味、苦み)」「ボリューム感」「テクスチャー」です。それぞれがどのように合うかを判断する際は、以下のマリアージュポイントを参考にしました。

同調 (ワインと料理の個性の一部が寄り添うことで双方を高め合う)
中和 (お互いの個性を中和させて味わいのバランスをとる)
補完 (ワインと料理の双方が揃うことで、足りなかったものを補完する)

※マリアージュ理論の詳しい内容は以下よりご覧ください
[2013年12月号] 第1回若手ソムリエ応援プロジェクト 『マリアージュ理論セミナー』の講義内容を公開します!
http://www.firadis.co.jp/newsletter/201312

【結果発表】

<白酢>
No.1:グリューナー・フェルトリーナー
中トロやきんめ、アジ、サワラといった脂の強い鮨との相性が抜群に良かったのがグリューナー・フェルトリーナーでした。ワインの程良い酸味・ミネラル感が脂を軽やかにしてくれるとともに、鮨の旨味を引き上げるような印象があり、素材の美味しさをしっかりと味わえる上に存在感が更に際立っていました。ガリとも好相性で、旨味や甘味を引き出す効果がありました。

No.2:ピノ・ブラン
どんなネタにも平均点以上の相性だったのがピノ・ブランです。しかし、全体的に悪くないのですがグリューナーのように美味しさを際立たせるというほどではなかったため、2位という結果になりました。どちらかというとイカや海老、マグロの赤身といった脂が少ないネタに合い、どのネタも邪魔をすることなく、程々の酸が素材の旨味を引き立てて鮨を更に美味しく感じさせました。

No.2:ピノ・ノワール(ドイツ)
柔らかで繊細な白酢には、シンプルで柔らか且つ酸味がそれほど強くないドイツのシュペートブルグンダーが同率2位に!特に脂の強いネタにはワインのテクスチャーの柔らかさが同調するとともに、タンニンが締めてくれるためダレずにキリリと食べさせてくれました。ただし、味わいがシンプルな分、カツオやウニなど味の強いネタには合いませんでした。

これはピノ・ノワール全般に言えることですが、そもそも煮切り(醤油)とピノの相性がとても良いというアドバンテージがあります。鮨に塗られた煮切りは豊富な旨味を塩味や酸味が支えるような構成の味わいですが、そのボリューム感にワインのボリューム感が合っており、旨味や酸味が同調するとともに、醤油からは塩味が、ワインからは果実の甘味が補完されるという五味の補完関係が成り立つためです。

No.4:ピノ・ノワール(ブルゴーニュ、サントネ(コート・ド・ボーヌ))
サントネについてもワインに柔らかさがあるため、白酢の鮨の柔らかさに合いました。特に脂の多めの鮨と好相性でした。ドイツのシュペートブルグンダーではなくブルゴーニュのピノ・ノワールならではだったのは、酸味や果実味が鮨に華やかさをプラスしてくれること。白酢の鮨だとワインがやや勝ってしまうためマリアージュとまではいかなかったのですが、赤酢には合うのでは?という期待につながりました。

No.5:ピノ・ノワール(ブルゴーニュ、マルサネ(コート・ド・ニュイ))
マリアージュの方向性としては上のサントネとほぼ同様で全体的に悪くない印象なのですが、よりストラクチャーがしっかりしたワインのため、ミネラル感がふんわりとした白酢の鮨の邪魔になる場面がありました。ただし、ウニには抜群に合いました!ウニのベストマリアージュワインです。

 

<赤酢>
No.1:ピノ・ノワール(ブルゴーニュ、マルサネ(コート・ド・ニュイ))
赤酢になると押し寄せるような旨味と力強い酸味が鮨にパワーを与えるため、白ワインやシンプルなドイツのピノ・ノワールは難しくなってしまい、ストラクチャーのしっかりとしたブルゴーニュに軍配が上がりました。マルサネはぶっちぎりのNo.1!!繊細なテクスチャーが赤酢の鮨に寄り添い、上に伸びるような感覚がありました。ワイン自体の旨味・酸味・甘味が強いため、赤酢の持つ要素と同調しながらしっかり寄り添いました。

ネタとしては、赤身やカツオからコハダ、海老、いかなどの比較的脂の少なめのものによく合ったのですが、特にウニは最高のマリアージュとなりました。

No.2:ピノ・ノワール(ブルゴーニュ、サントネ(コート・ド・ボーヌ))
サントネもパワーのある赤酢の鮨にはよく合いました。特に中トロやサワラなど、マルサネよりも脂の強いネタと相性が良かったです。ただマルサネと比べてしまうと、味わいの後半がフラットになってしまう印象があり、マリアージュのレベル感としては一段低いと言わざるを得ません。

No.3:グリューナー・フェルトリーナー
白酢と同様にネタの魚の旨味・甘味を引き上げてくれるため、とてもよく合いました。ワインの酸が魚の脂を切って軽やかにしてくれるので、もっと食べたい!と思わせてくれます。ただやはり赤酢になるとシャリの力強さに負けてしまい、評価は伸び悩みました。


別枠① シャンパーニュ
 今回マロ有りとマロ無しの2種類のブラン・ド・ブランを合わせたのですが、酸の高さ、旨味(アミノ酸)の豊富さという共通項があってシャリと非常によく合うため、どんなネタでも全体的に素晴らしいマリアージュを見せました。特に白酢の繊細さや柔らかさにはマロ有りのブラン・ド・ブランがベストだと思います。赤酢ではマロ無しの酸味もシャリの酸味と同調しましたし、より懐の深さがあるためシャルドネ以外のブドウがブレンドされたシャンパーニュでも良かったかもしれません。

別枠② グルナッシュ(ローヌブレンド)
 ツメをはった穴子にピンポイントでマリアージュしたのがグルナッシュでした。ツメにはピノ・ノワールだと酸っぱく感じてしまうため、まろやかで酸の少ないグルナッシュがしっくりときました。

【その他のワインについて】

● シャルドネは、NGではないものの、樽香や果実味が浮いてしまって白酢でも赤酢でもどのネタでもぴったりとは合いませんでした。もしどうしても合わせたい場合には、樽香の控えめなものが好ましいかと思います。

● 酸味と甘味を持つリースリングはシャリに合うのでは?と予想したのですが、リースリング特有のアロマが強く出てしまい合いませんでした。

● ソーヴィニヨン・ブランはそのまま合わせようとするとワインのアロマが浮いてしまうためNGでした。ワインを鮨に近づけてくれる“何か”、例えばゆずやカボスなどの柑橘のニュアンスなどがあれば同調して合わせられると思います。

● シルヴァーナーはワインと鮨の方向性がバラバラで相入れないという印象でした。

【まとめ】

白酢ではグリューナー・フェルトリーナーが1位、ピノ・ブランと柔らかくシンプルなドイツのピノ・ノワールが同率2位となりました。対して赤酢はブルゴーニュ、それもニュイのピノ・ノワールが圧倒的なNo.1に輝きました。予想以上にすんなり理解しやすい結果になったのではないでしょうか。

繊細で柔らかな味わいの白酢の鮨には、ボリュームも味わいの各要素も強すぎず程々ながら素材の存在感を引き立ててくれる白ワインを。強い樽香やアロマは必要ありません。
赤ワインを合わせるのであれば絶対的にピノ・ノワールですが、中でも抜け感があり、熟成までは行かずとも角が取れた味わいのものが好ましいという結果になりました。

力強い旨味と酸味が特徴の赤酢には、絶対的にストラクチャーがしっかりしたブルゴーニュのピノ・ノワールが合います。ワインの持つ果実味と酸味が鮨に華やかさをプラスしてくれて、更に高級感のある至福のマリアージュをお楽しみいただけることでしょう。

また、シャンパーニュの万能さも特筆すべきものがあります。まずはグラスでシャンパーニュをご用意し、その後にそれぞれのマリアージュワインにつなげていくのもとても良い流れだと感じました。


今回の実験では、一つ一つのネタごとに細かく分析するのではなく、大枠で捉えることを意識しました。その結果、複雑で難しそうだった鮨とワインのマリアージュをシンプルに捉えることができ、一つの指標を導き出すことができたと思います。職人の技が光る至高のお鮨にどんなワインを合わせるか悩んだ時には、今回の結果を参考にしていただけたら幸いです。