[2015年7月号]【フィラディス実験シリーズ第6弾】 本格的な夏到来間近!今、最も気になる“熱劣化”を徹底検証(営業 白戸 善紀)

2015.07.03ニュースレター

今回の実験のテーマは、真夏の到来を控えた今だからこそ気になる『熱によるワインの劣化』です。

 

フィラディスでは、各国のワイナリーからワインをピックアップしたところから、船での輸送はもちろん船積みを待つ間などの僅かな時間も常に温度管理を徹底し、お客様のお手元に届くまで細心の注意を払っております。全ては熱によってワインの美味しさが損なわれるのを防ぐためです。では、熱が入ってしまったワインはどのような変化をするのか?今回実際に実験で検証してみました。

また、お客様(レストラン様や酒販店様)のお手元に届いてからのお店での保管や配送時には様々な状況が考えられると思いますので、基準となるような情報をお届けしたいと考えました。

 

今回の実験で解明するポイントは以下の3つです。

① 熱が入ったワインの味わいはどのように変化するのか?

② 高温にさらされる時間やその温度によって劣化度合いは変わるのか?

③ 一度劣化したワインは時間と共に回復するのか?

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【実験方法】

熱による劣化がどの温度帯から起きるのかを調べるため、30℃、35℃、50℃でワインを湯せんしました。湯せん時間は、1時間と8時間の2パターンです。(30℃・35℃・50℃という温度のお湯に浸け込んだ時間です)

★それぞれの温度帯は以下を想定★

・30℃: 真夏、日陰の温度

・35℃: 真夏、直射日光のあたる場所

・50℃: 夏の常温の配送車(屋外に停めた車の室内)

これらの熱入れをしたワインを、15℃のワインセラーで保管したワイン(以下、基準ワイン)と比較して、どのような変化があったのかを検証しました。また、熱入れをしてから2ヶ月間セラーで休ませたワインも基準ワインと比較し、時間経過により回復するかどうかも検証しました。

尚、50℃の熱入れを行ったワインは、固定されているスパークリング以外、ほぼ全てのコルクがキャプセルを突き破るほど浮き上がり、液漏れも見られました。30℃・35℃では外観上は別状ありませんでした。

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★実験に用いたワイン ★

※価格は希望小売価格(税抜)です。

スパークリング: N.V. Cremant de Loir Cuvee St. Gills / Domaine Dutertre (仏・ロワール、2500円)

白: 2013 La Closerie des Lys Chardonnay / Ch. Antugnac (仏・ラングドック、合成コルク、1850円)

軽快な赤: 2013 La Closerie des Lys Pinot Noir / Ch. Antugnac (仏・ラングドック、2050円)

重厚感のある赤: 2013 Conde de Alicante Cabernet / Bocopa (西・アリカンテ、1400円)

 

【実験結果】

<実験① スパークリング: Cremant de Loir Cuvee St. Gills / Domaine Dutertre>

30℃×1時間 ⇒ 変化は小さい。「香り」「果実味」「余韻」が若干変化

変化は非常に小さく、スタッフの中には全く変化が見られないとした者も数名いました。 強いて挙げるならば、劣化した部分は「香り」と「果実味」、そして「余韻」です。「香り」は立ち方が弱まり、フレッシュ感がやや失われ、「果実味」は広がりが弱くなりました。「果実味」の弱まりに対して「酸」には変化がなかったため、この2要素のバランスが崩れ、「余韻」のまとまりが悪くなったと感じました。

35℃×1時間 ⇒ 「香り」「果実味」への影響が顕著

35℃の場合では、「香り」と「果実味」への影響が顕著に現れました。「香り」は果実香がなく蒸れた印象になり、「果実味」はフレッシュ感が損なわれてまったりとしたものに変化しました。30℃の時と比べても「果実味」が一段と落ちたことで、「酸」が目立つようになりました。「余韻」はまとまりが悪くなったことに加え、短くなりました。

50℃×1時間 ⇒ ワインとして受け入れがたいレベルに

違和感を通り越し、劣化の度合いをはっきりと感じます。ワインとしては受け入れがたいレベルと言えるでしょう。「香り」には腐敗香が混ざり、「果実味」は抜け落ち、単純にドサージュの糖の甘さだけが残ります。加えて、苦味と酸味が目立ち、「酸」は後半になるほど強く感じられます。「余韻」には厚みがなく、えぐみが出ました。更にこの段階になると、泡もなくなりました。

8時間の熱入れでは・・・ ⇒ それぞれの変化レベルが一層強くなる

1時間の熱入れと比較すると、それぞれの要素において変化のレベルが一層強く感じました。30℃・35℃・50℃毎に劣化は格段に進みますが、30℃×8時間は35℃×1時間に匹敵するかそれ以上の劣化を見せました。尚、1時間と8時間で最も大きな変化を示したのは35℃で、特に泡の印象が大きく変わり、まるで抜栓後数日経っているかのようでした。

回復したのか? ⇒ 熟成感が出てまとまりは見せつつも、スケールが小さい別物のワインのよう

このワインは元々24ヶ月以上と熟成期間が長いのですが、2ヶ月間休ませたワインでは熟成感がより顕著になるという別の要素が見られました。熟成が進んだことにより、突出していた「酸」がこなれてまろやかになった印象を受け、その影響で30℃と35℃では熱入れ直後に見られたばらつきは収まり、まとまった印象を受けました。ただし、基準ワインに近づいたわけではなく、「香り」や「果実味」といった各要素が回復しないまままとまっただけで、ワインとしては1つの形にはなっているものの、全体的にシンプルかつスケールの小さい別物のワインになったように感じました。50℃のワインには回復は見られず、腐敗香やえぐみはそのままで、酸化のニュアンスも出ていました。

1時間と8時間では、8時間の方がワインに疲れた印象が感じられました。グラスに注いですぐは1時間のワインとさほど差は感じられませんが、注いでからの落ち具合は断然8時間の方が早いと感じました。

 

● スパークリングまとめ

・「香り」と「果実味」が特に損なわれ、温度帯によって「酸」の印象が段階的に悪くなった。

・35℃×8時間あたりからえぐみや苦みが出てきて、50℃では1時間の熱入れでも受け入れがたい状態になった。

・2ヶ月置いたことにより、「香り」や「果実味」には回復は見られなかったが、熟成によるまろやかさという新たな変化が見られた。それによってまとまりは見られるものの、スケール感の小さな別物のワインになった印象を受けた。

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<実験② 白: La Closerie des Lys Chardonnay / Ch. Antugnac >

30℃×1時間 ⇒ はつらつとしたフレッシュさが、若干穏やかな印象に変化

元々はフレッシュで生き生きとしたはつらつさがあるワインですが、30℃では柑橘系の「香り」が少しこなれて穏やかな印象に変化し、まったりとした柔らかみが感じられるようになりました。「酸」はもともと高いワインではないため、大きな変化は見られませんでした。

35℃×1時間 ⇒ こなれ感が強く出るとともに、水っぽさを感じる味わいに

30℃のこなれた印象が更に強くなり、更に「果実味」が抜けて水っぽさが出ました。

50℃×1時間 ⇒ 「果実味」が劣化し、苦味を感じるドライな印象のワインに変化

50℃では、更に「果実味」の劣化が目立ち、苦みが感じられました。「果実味」が抜けたことでドライな印象のワインに変化しました。

8時間の熱入れでは・・・ ⇒ 30℃から「果実味」が抜け、メリハリのないワインという印象

30℃の時点から「果実味」が抜けた印象が出てきました。実験①スパークリングに比べて糖度が低いせいか、「果実味」の抜けは非常に分かりやすく感じました。また、1時間と比べて8時間のほうが全体的に「香り」が閉じた印象があります。「酸」に関しては8時間でも大きな変化は見られませんでした。温度帯が上がるにつれて、甘みが抜けてメリハリがないワインに変わりました。

回復したのか? ⇒ 抜け落ちてしまった「果実味」は戻らず、回復なし

1時間・8時間どちらの場合においても、2ヶ月の時間経過による大きな変化は見られませんでした。特に「果実味」と「香り」が戻らなかったため、若い白ワインの特徴であるフレッシュ感や果実のはつらつさ、アロマティックなニュアンスが無くなり、ワインの根幹自体が失われたと感じました。実験①ではワインを休ませることで熟成感という新たな要素が加わりましたが、白では単純に要素が抜け落ちるだけでした。

 

● Chardonnay まとめ

・「香り」からくるフレッシュ感と「果実味」という白ワインの重要な要素が 損なわれるため、熱の影響は分かりやすい。“変化”というよりも“欠落”を感じた。

・熱入れによって水っぽさが増すとともに辛みや苦みが表面化し、ドライなワインになった。

・「果実味」「香り」以外の要素に変化が表れないため、熱劣化したワインを出されても劣化に気付かず元々ドライなワインだと捉えてしまうかも。正常な状態と比べなければ劣化が分かりづらい。

・2ヶ月休ませても回復はしない。

 

<実験③ 軽快な赤: La Closerie des Lys Pinot Noir / Ch. Antugnac>

Pinot Noirでは今回の実験で唯一「色調」にも変化が見られ、高い温度で熱入れするほど色合いは淡く薄くなったように感じました。ただ、単体ではっきり認識できるほどの変化ではなく、外観だけで熱劣化を把握するのは非常に困難かと思われます。

30℃×1時間 ⇒ 微妙な変化。単体で出されたら劣化は感じない範囲

非常に微妙な変化です。「果実」のふくらみが小さくなり、「余韻」のベリー感も弱まったように感じますが、比べなければ分からない違いであり、単体で出されたら劣化は感じない範囲です。

35℃×1時間 ⇒ 劣化のニュアンスが格段に感じられるように

35℃になると格段に劣化のニュアンスが感じられるようになります。ベリーの「香り」は消え、添加したような人工的な香りが出てきます。また、「果実味」の持続力がなくなってストンと消え、アタックからフレッシュ感が損なわれ、アフターに「酸」を感じるようになりました。

50℃×1時間 ⇒ ワインとして受け入れがたいレベルに

劣化が明らかです。「香り」は全く上がって来ず、つややかさのない味わいで、「余韻」にはミネラルの太さがなく酸と苦味を感じました。

8時間の熱入れでは・・・ ⇒ 30℃から「香り」と「果実味」の落ちがはっきり

30℃でも注いでから時間が経過した時の「香り」と「果実味」の落ちがはっきりと感じられます。「果実味」は弱く、メリハリのないぼてっとしたニュアンスで、アフターにはピリピリとした「酸」が残ります。 35℃では1時間の時より更に劣化し、タンニンはざらついたニュアンスとなり、 「余韻」にも苦味が目立って明らかに美味しくなくなりました。50℃になるとお酢のようなツンとした「香り」が立ち、「果実味」は落ちていました。「果実味」が無くなったことで「酸」が目立ち、とげとげした印象を受けます。「余韻」の苦味も顕著でした。

回復したのか? ⇒ 30℃・35℃×1時間は回復、8時間のワインと50℃には回復は見られず

2ヶ月経過後では、30℃と35℃で1時間熱入れしたワインには回復が見られました。
30℃は、基準ワインとの違いはほとんどありません。35℃になると過熟した印象があり、「香り」に甘やかさがあったり「果実味」も若干アフターに弱さが見られるものの、熱入れ直後のような落ちた印象は受けません。フレッシュ感はないですが、落ち着きがあってある程度バランスが整っていました。しかし、8時間のものは、「香り」は回復したものの、抜けてしまった「果実味」には回復は見られませんでした。
50℃では1時間・8時間のどちらも劣化のニュアンスは残ったままで、戻りようがない状態にあると感じました。

 

● Pinot Noir まとめ

・色合いにも変化が見られた。

・スパークリング・白と同様、劣化が「香り」と「果実味」に重点的に現れた。

・30℃ではほとんど変化を感じないが、35℃以上では劣化が見られる。

・2ヶ月休ませた場合、30℃・35℃で、熱が入った時間が短ければ回復した。

 

<実験④ 重厚な赤: Conde de Alicante Cabernet / Bocopa>

最も熱劣化による変化が起きなかったワインでした。

30℃×1時間 ⇒ プラスの変化が見られるという意外な結果に

変化自体は感じますが、劣化ではなく、プラスの要素として感じました。甘みが増し、酸は細かくよりきれいになった印象を受けました。

35℃×1時間 ⇒ 劣化とは言えないレベル

30℃と同様に劣化のニュアンスはあまり感じませんでした。基準ワインと比べて「果実感」に落ち着きが出て、「余韻」のパワフルさは無くなったものの決して短くなったわけではなく、劣化とは言えない範囲でした。

50℃×1時間 ⇒ 「果実味」の中心の強さがなくなり、タンニンが目立つ明らかな劣化を感じる

50℃では「色味」がエッジの部分が薄くなり、ベリー系のアロマが閉じこもってしまいました。また、「果実味」は中心の強さがなくなるとともにタンニンが目立つようになり、明らかな劣化が見られました。

8時間の熱入れでは・・・ ⇒ 35℃から明らかな劣化が現れる

30℃では「香り」はややくぐもり、「果実味」にもわずかに弱さが感じられましたが、単体で飲むと劣化のニュアンスとは感じないと思います。35℃からは明らかな劣化が現れ、「香り」「果実味」が無くなり、「余韻」にはえぐみを感じました。50℃も苦味やえぐみが強く、難しい状態となりました。いかにCabernet Sauvignonが強いとはいえ、やはり50℃の熱が入るとワインが受けるダメージは相当大きいといえます。

回復したのか? ⇒ 35℃まではある程度回復。50℃でも多少回復するが、8時間ではNG

今回の実験で最も回復を感じたのが35℃×8時間の熱入れを行ったワインでした。焼けたニュアンスはありますが、熱入れ直後のワインに比べて「香り」を取り戻しており、「果実味」も基準に近づいた印象を受けました。
50℃の場合、「香り」はほぼないものの、「果実味」は多少回復しました。しかし、特に8時間熱入れしたものはマロラクティック発酵のような乳酸っぽさが出ており、ストラクチャーがなくなったように感じます。1時間ではレベルダウンしたもののワインとしてはまだ飲める範囲でしたが、8時間は非常に難しいといえます。

 

● Cabernet Sauvignon まとめ
・熱に対する耐性・回復度ともに他のワインと比べて明らかにあった。
・短時間の熱入れでは、温度帯によってはプラスともいえる変化があった。熟成にも似た変化であり、劣化との境界線を見極めるには更なる考察が必要。

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【実験を終えて】

* 熱によって顕著に影響を受けるのは、「香り」と「果実味」。ひどくなると苦味やえぐみが生まれる。

* 熱劣化への耐性は、重厚な赤>軽快な赤≒スパークリング>白

* ある一定の温度を超えたら劣化は著しい。

  ‐白は、30℃の場所に1時間置いただけで劣化のニュアンスが出る

  ‐スパークリングと軽快な赤は、30℃に長時間放置するのはNG、35℃以上は厳禁

  ‐重厚な赤は最も強いが、35℃以上に長時間の放置はNG

* 回復度合いは、重厚な赤>軽快な赤>スパークリング>白

  白ワインは回復が見られない。スパークリングは熟成が進んだまろやかな印象に。

 

今回の実験結果から、30℃までは短時間ならそれほど大きな変化はありませんが、長時間になったり、35℃を超えてくるとワインは劣化していきます。また、ワインのタイプによって劣化の早さや劣化のレベルは異なります。回復という点でもワインのタイプによって変わりますが、白ワインが回復しないということは発見でした。

ワイン本来の味わいをそのままお楽しみいただくために、保管や配送時の環境に少しでもご配慮いただければインポーターとして幸せに思います。