[2012年3月号] ワインのコンディションに関するお話(営業 曽束 寿仁)

2012.03.01ニュースレター

前回までに皆様にお届けした『ワインの輸送の“ホント”』、『船便VS航空便の比較試飲』が大変御好評頂きましたので、今回はワインのコンディションについてお話したいと思います。

フィラディスでは様々な古酒を取り扱っており、毎月大量の古酒が入荷してきます。私が検品するワインだけで、ざっと年間5万本。日本でいちばん多くの古酒を中心としたファインワインを目にしているはずです。ここでは、私の経験に基づいて、お話を進めようと思います。

 

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ワインのコンディションとは?

古いワインになるほど、ボトル毎の状態は異なります。

チェックすべきポイントは、ラベル、液面、色調、キャプセル周りです。ラベルは外観だけの問題なので、ワインの中身には直接関係がありません。ワインの状態に最も影響するのが液面と色調ですが、ワインのコンディションを判断するうえでいちばん大切なのは色調です。弊社は検品時に、ペンライトの光を当てて、色調のチェックをしています。液面の高さやキャプセル周りに問題がなくても、色調に輝きがなく濁っていたり、茶色や黒く変色したワインはダメージを受けており、そういった場合は販売の対象から除外しています。よって色調がフィラディスのファインワインリストの備考に挙がる事はありません。

また、熱劣化の可能性がある液漏れしているワインも全て除外しております。キャップシールを剥がすと、コルク全体が染まっているのではなく、コルク側面に一筋の赤い染みを見ることができ、熱等の原因で液体が膨張した可能性を意味しています。

 

液面の高さについて

一般的に経年変化としては、10年で1cmの目減りがするとされています。弊社ファインワインリストの備考欄には、ボルトー型のタイプの場合、液面が高い順に、ベリートップショルダー(VTS)、トップショルダー(TS)、アッパーショルダー(US)、ミッドショルダー(MS)と記載しており、ブルゴーニュ型ではcmで記載しております。

しかしながら、すべてのワインに対して、液面の記載をしているわけではありません。70年代のボルドーワインがベリートップショルダーであっても、問題ないと判断しているからです。

では、どの程度の液面だとリストに記載すべき液面なのでしょうか?先ずは液面が時間の経過ともになぜ下がっていくのか、ここで改めてお伝えします。

今までの書物の情報から、こう思っていらっしゃいませんか?「瓶詰めされたワインはコルクを通して酸素を取り込み、ゆっくりと熟成していく」この言葉は、酵母による発酵メカニズムを解明した人物で知られるルイ・パストゥールの言葉です。この言葉によって長らく、コルクが呼吸することによって、ゆっくりと酸化熟成していくものだと思われてきました。実はこれは大きな誤り
で、現在ではコルク栓は空気に対して完全なる密閉状態であるとされています。この事を示す良い例がシャンパンです。シャンパンには通常6気圧の圧力があります。6気圧というのは、バスのタイヤの内圧に匹敵する圧力です。それ程の圧力がコルクには掛っているのです。もしコルクが空気を通すのであれば、いとも簡単に泡が消え去ってしまいます。

では、何故完全なる密閉状態であるにも関わらず、時間の経過と共に、ワインが目減りしていくのでしょうか?

コルクの性質によるものがまず大きな理由として挙げられます。コルクは細胞が密に詰まった蜂の巣状の組織です。無数の穴が存在するために、弾力性に富みます。コルクが瓶に打ち込まれた途端に、瓶の内側に吸着し密閉状態になるために栓として幅広く利用されています。でも密閉状態であるのにワインが目減りしていくのは、時間と共にコルクは水分を吸収してい
るからです。これは若いワインのコルクと何十年も経ったコルクを見れば一目瞭然です。若い赤ワインのコルクはワインに接している面だけが赤く染まっていますが、古いワインだと少し重みを感じる程にワインが全体が染み込んでいます。ワインが染み込んでいるコルクを見ると、「いい状態に熟成したワインだね」とよく言いませんか?コルクが吸い込んだ分、ワインが目
減りすることはこれで説明がつきます。

はたまた、コルクが吸い込める分以上に液面が低くなっているという事もあります。これはコルクが徐々に弾力が失われ、ボトルとコルクの間に微妙な隙間が出来ることと、水の分子の大きさがとても小さいことに起因しています。

前述のように、コルクは完全なる密閉状態ですが、厳密に言うと空気に対して密閉状態であるという事です。空気中の酸素の分子は大きいので、コルクが緩まない限り、瓶の中には入っていきません。コルクは空気中の酸素を通すことなく完全に密閉状態を保っているのです。一方、ワインの70~80%は水分ですが、水の分子の大きさは酸素の半分です。分子が小さいために、長期間経過した後の弾力を失ったコルクの場合、ボトルとコルクの僅かな隙間を通り抜けることが出来るのです。ちなみにワインのエチルアルコールの分子も酸素と同じくらいの大きさなので通り抜けられず、目減りしたワインのアルコール総含有量は変化しないそうです。

このように、コルクが水分を吸収することと水の分子の小ささが起因となり、年数と共に自然と液面が目減りするということをご理解して頂けたと思います。

ここで1つお断りがあります。この液面の目減りの話は、一定量のワインが均一に瓶詰めされていることを前提にしています。小規模な生産者のブルゴーニュワインでは、このような説明は必ずしも成り立ちません。そもそも同一のワインであっても、液面が均一に揃えられている事などないからです。それらを一定の基準で判断することは出来ません。またドメーヌによって
も、目一杯まで瓶詰めするドメーヌもあれば、コルク下から約2cm程ヘッドスペース(ワインの液面とコルクの間)を空けて瓶詰めするドメーヌもあり、画一的な判断は出来ません。

これまでに述べました理由により、フィラディスではヴィンテージを勘案して、年代相応の目減りでは、リストに液面の表記を行っていません。逆に年代よりもやや目減りしているのでは?と思えるものは、コルクの側面を空気中の酸素が通ってワインが酸化している可能性が無きにしもあらずのため、備考として表記し、そのリスク分を価格にも反映しています。もちろんその
際は色調、キャプセル周りを入念にチェックして劣化が疑われるボトルは販売対象から除外しています。また、経年変化以上に極端に下がっている場合は、ボトルのダメージのリスクが高いので、こちらも皆様にご案内することはありません。

 

キャプセルの腐食について

弊社のリストでは備考欄に「キャプセル腐食」と明記しているワインが幾つか出てくると思います。キャプセル腐食とは、その名の通り、腐食により一部欠損したり、塗料が変色したり欠けている状態、触ってみるとザラザラと隆起した状態を示しています。このような状況は若いヴィンテージではあまり見かけることがなく、少なくとも十数年以上経過したワインに見られます。この腐食は、液漏れを起因とした腐食もありますが、必ずしも液漏れだと断言することは出来ません。

カリフォルニアのオーパス・ワンの70~80年代のワインは必ずと言っていいほど、キャプセルが白っぽくなり、ザラザラとした状態に変化しています。ボルドーワインでも、装飾として金色の塗料が一部塗られていますが、70年~80年代のボトルだと、この部分だけが剥がれ落ち、下地を見せていることがままあります。ブルゴーニュだと、クレール・ダユの緑色が黄色に変色したり、モンジャール・ミュニュレの金色のキャプセルに緑色の錆のようなものが付着します。

何故、こういった腐食になるのかは、湿度の高いところで保管されていた記しであること以外、説明することは出来ませんが、経験を踏まえて、その生産者の特性というのが見えてきます。

その最たる例がドメーヌ・ルロワです。フィラディスに入荷するボトルの3割はドメーヌワインの象徴である赤色の塗料が一部落ちているため、備考にはキャプセル腐食と記載しております。では何故ドメーヌ・ルロワのキャプセルは腐食しやすいのでしょうか?

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ドメーヌ・ルロワの場合は、目一杯にワインが詰められています。また、最上級のコルクを使用しているため、コルクの上部までワインがよく染み込んでいる事が起因していると思います。キャプセルを剥がして確認してみると、コルク上部(液面と反対側)に無色透明で香りが付いた水滴が付着しており、それによってキャプセルが腐食しています。そのようなボトルだと、一見、ダメになっていると判断されがちですが、抜栓すると素晴らしい状態である事から、必ずしもキャプセルが腐食しているからと言って、ボトルがダメージを受けている事にはならないのです。液面同様、少なからずリスクが生じるために、弊社では備考欄にキャプセル腐食と記載し、価格にも反映させております。

 

以上、今回はフィラディスのファインワインの検品責任者として、ワインのコンディションについてご説明させて頂きました。今後も皆様に安心して古酒を楽しんで頂くために、より確かなるボトルをご提供して参りたいと思います。

 

<参考文献>

ジェイミー・グッド『ワインの科学』河出書房新社

マット・クレイマー『ワインがわかる』白水社

堀賢一『ワインの自由』集英社

Michael Broadbent『Vintege Wine』Litlle,Brown